8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2

 そのまま離れようとしたとき、うしろから声をかけてきたのがエリオットだ。

「姉上! あ……お話し中でしたか。すみません」

 エリオットとローランドが、廊下の反対側からやってくる。エリオットはジャネットの姿に気づくと、しまったというように顔を曇らせた。

「どうしたの、エリオット。……あ、申し訳ありません、ジャネット様。弟です」
「まあ、弟さん?」
「初めまして。エリオット・オールブライトです。この度エラルドセントラル大学に留学させていただくことになり、寮の準備が整うまで、城に滞在させていただいているのです」

 エリオットは金髪のふわりとした毛を揺らして、微笑んだ。

「エリオット、こちらはジャネット・ロイヤルベリー公爵令嬢よ」

 フィオナの紹介にエリオットはわかりやすく、顔をこわばらせた。

「あ、ああ、お噂はかねがね」
「あら、どんな噂かしら」

 ジャネットは動じず、扇を口もとにあてて会釈した。

「エリオット様も、どうぞよろしくお願いいたします。フィオナ様、引き留めてしまって申し訳ありません。今度ぜひ、一緒にお茶でも」
「ええ。ありがとうございます」

 客間に向かって歩いていくジャネットを、ローランドが苦々しい顔で見ている。

「彼女が噂の公爵令嬢ですか。美人ですね」

 エリオットがほうとため息をつきながら言う。ローランドは不満げに口元を引き締めた。

「フィオナ様、オスニエル様はなぜあの方を滞在させておられるのですか?」

 その態度を見ているだけでも、ジャネットが城内でどんな噂をされているのかわかるというものだ。

「ローランド、落ち着いて。ジャネット様は香水を広めるために来ているそうじゃないの」
「なにを呑気な。噂では、オスニエル様の側妃候補だとか」
「ローランド、口を出しすぎだよ」

 止めたのはエリオットだ。フィオナも微笑み、「いいのよ」と告げる。

「もしそうだとして、私は、反対はできないわ。この国はね、帝国の血統を大事にしている国なの。両親とも帝国の血を継ぐ王子が欲しいと言われれば、私には頷くしかないでしょう?」

 頭では分かっていることだが、胸は痛い。それでも、ここで我がままを言えるような育ち方はしていない。王家の人間たるもの、受け入れなければならないことはある。不服があろうとも飲み込むのが課せられた使命だ。