8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2

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 昨晩話ができなかったので、フィオナは朝食の際に、オスニエルに時間を取ってくれるようとお願いした。
 オスニエルは執務が立て込んではいるようだったが、昼過ぎには時間を取ろうという返事だった。
 そんなわけで、昼過ぎに子供たちを侍女たちに任せ、フィオナはポリーを連れて城の執務室に向かった。すると客室の近くで、ジャネットとすれ違った。

 フィオナに気づいたジャネットは、廊下の端によって、フィオナに譲る。思いがけないところで会ってしまって驚いたが、これも運命だと思うことにした。

「あの、ロイヤルベリー公爵令嬢でいらっしゃいますか?」

 頭を下げたままだったジャネットは顔を上げてほころばせる。

「フィオナ様。お初にお目にかかります。ジャネット・ロイヤルベリーでございます」

(あら?)

 ジャネットの笑顔は、意外にもとても親しげだった。

「早くご挨拶したいと思っていましたの。ですがフィオナ様は後宮にこもりがちだと伺って」
「申し訳ありません。こちらこそご挨拶が遅れてしまって」

 フィオナが慌てて頭を下げる。ふいに、気になったのは香りだ。甘くて、鼻のあたりの残る、後を引くような香り。なんとなく胸がざわざわする。

「素敵な香りですね」

 お世辞のつもりで言うと、ジャネットはぱっと顔を輝かせた。

「このたびは私、香水を皆さんに知ってもらうために、参りましたのよ?」

 ジャネットは小さな小瓶をフィオナに見せた。少し黄色みがかっているが、透明な液体だ。瓶を開けると、甘酸っぱいような香りがした。

「この香水は、公爵令嬢が作られているのですか?」
「ええ。花びらから、精油を取るのです。製法は秘密なのですが、多くの花びらや樹木を使っても、ほんの少量しか取れない貴重なものなのです。それにアルコールで加工するとできあがります」

 香水はこれまでにももちろん存在していたし、王都には老舗の香水店もある。しかし、ジャネットの持っているものは、このあたりの店の者よりも、ひときわ香りが広がりやすいような気がする。封を開けただけなのに、あたり一帯にいい香りが漂っている。

「ロイヤルベリー領はお花が特産品だと聞いています。この香水も、理領地のお花を使用されているのですか?」
「ええ。香水だけじゃなく、花卉の紹介もできたらなおうれしいです。ですから、ぜひサロンなども開きたいと思っておりまして。もしよければ、フィオナ様もお越しくださらないかしら。城の一室で行うならば、移動もありませんし、お体に無理なく参加していただけるのではないかしら」
「ええ、そうね。……オスニエル様とも相談してみます」