8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2

「とにかく、油断は禁物です。フィオナ様。オスニエル様の御心をつかんで離さないよう、しっかりなさってくださいませ」
「え、ええ」
「男性は女性が妊娠中やお子様が小さいときに浮気すると言いますから! 駄目、絶対、ですわ!」
「お、落ち着いて。ステイシー様」

 異様な熱の入りように、フィオナが慌ててなだめると、ステイシーは突然ポロリと涙をこぼした。

「ステイシー様? どうしたんですか!」

 かなりの情緒不安定である。顔を押さえ、めそめそと泣き続けるステイシーのそばに行き、背中をさすってあげると、しゃくりあげながらも話し出した。

「わ、私、不安なんですの。ロニーったら妊娠しているのだから社交はしなくていいって言いますのよ。でも彼はひとりでいろいろな夜会に出席しますでしょう? 貴族男性が愛人をかかえるのはステイタスとも言います。私が知らないうちに、どこかの淑女とねんごろになられたらと思うと……」

(ねんごろ……って。珍しい言葉を知っているわね、ステイシー様)

「落ち着いて、ステイシー様。そんなことあるはずないわ。あなたを大切に思ってくださる旦那様じゃないの。不安に思うなら聞いてみればいいのよ」

「そんなことできないわ。嫉妬深い妻だと思われてしまうじゃないの」

 結局のところ、ステイシーは自身の不安を吐き出したい気持ちもあったらしい。
 夫に問いただせばいいだけのことを、思い悩み、苦しんで。でもそれは人間ならば誰でも持ち合わせる感情なのだろう。フィオナだってそうだ。公爵家への滞在が長引くことへの不信感を、ただ抱えてごまかしてきた。

「ステイシー様」

 だからだろうか。思い悩むステイシーに対して、とても愛おしい感情が湧いくる。

「実は私も、時々不安になるの。自分の気持ちがうまく伝わらなくて、オスニエル様の気持ちが分からなくて。でも、勇気を出して話してみるわね。だからステイシー様も……」
「……フィオナ様」
「不安なのは一緒。ね。だから、一緒に頑張ってみましょう?」

 ステイシーの手を握りながら、フィオナは自分に言い聞かせる。
 ジャネットのことも、ちゃんと聞いてみるべきだろう。オスニエルは濁しているが、フィオナは正妃として、正しい対応をしなければならないのだ。

「やっぱり、フィオナ様とお会いできてよかった。ぜひまた招待させてくださいませ」
「ええ。私も楽しみにしていますね」

 フィオナは決意を新たに、アリンガム侯爵邸を後にした。