それでも、フィオナや子供たちが、ここにユーインがいるのだと教えてくれた。

「私ね。私があなたを死なせたのだと思っていたの。それがつらくて、苦しくて、オスニエル様のせいだといって、こんな騒動を起こして……」

 頬をつうと伝う雫は、握りこんだ手の甲へと落ちていく。

「罰せられてもいいと思っていたの。そうすれば、あなたのそばに行けると思って」

 だけど今は、それで彼が喜ぶのかわからなくなった。だってアイラは、彼が悲しそうな顔をしているといったのだ。
 結局、死者との折り合いをつけるのは自分自身なのだ。力のない人間には、見えないし聞こえない。残されたものをどう受け止めて、どう生きていくのか、決めるのは自分自身だ。

(ユーインは私を恨んでいないと言ってくれた)

 あの不思議な体験はもしかしたら夢かもしれない。だけど、今はその言葉を信じようと思う。

「私、あなたの育てた花を、もっと広めたいって思っているの。貴方と私、ふたりで育てたものだもの」

 子供には恵まれなかった。だけどその分、ふたりで花に囲まれてたくさんの話をした。香りの配合、香水としての利用法。頭を並べて考えるのは、とてもわくわくした。
 この香りを、悲しい思い出の香りとして終わらせたくない。

「いいかしら。続けても」

 広い空間に霧散していく自分の声。現実は無常で、返事はない。それでも、ジャネットの鼻孔をくすぐったのは、最初に訪れた白い花畑の香りだった。

「ユーイン」
『君は、笑っているときが一番きれいだ』

 聞こえない声が、頭に浮かぶ。そうだ、彼ならばきっとそう言うだろう。ちょっと気障で、気が優しくて、誰より自分を愛してくれた彼ならば。
 人の死を乗り越えるのは難しい。もしかしたら、乗り越えた気になっているだけかもしれない。それでも、ジャネットはようやく、過去ではなく未来に目を向けられる気がしてきた。
 彼が愛してくれた自分のままでいられるように。