#青春リクエスション

夜は藤代花絵先輩と2人きり、すっごく楽しみだった合宿で唯一不安しかなかったこの時間。

生徒会女子メンバーは私と藤代先輩しかいないため、一晩2人で過ごさなきゃいけない。

めっちゃ緊張する… 男子は生徒会室、女子は和室を貸してくれた。
普段は花道部が使ってるところに借りて来た布団を敷いた。

「………。」

い、息をするのも緊張する…


鉄の女と2人は緊張するーーーーー!!!


何を話せばいいんだろう。
何言っても話合わない気がする。

まだ名前ぐらいしか言ったことないし、私って一体どう思われてるんだろう…?

とりあえず意味なく正座をしてみる。なるべく邪魔にならないようにこじんまりと息をひそめて。

「井住さん」

「はいっ!」

しーんとしていたこの場で急に名前を呼ばれてわかりやすく肩がぶるってなった。声も大きくなっちゃった。

「井住さん、コーヒー飲める?」

「飲めます!!!」

…本当は飲めないんだけど。
飲めません!って言ったら何て言われるか怖くて嘘をついた。

「どうぞ」

「ありがとうございます!」

渡された缶コーヒーはよりによってのブラック。

せめて微糖とか低糖だったら誤魔化しながらイケたのに…!

1ミリたりとも表情に変化がない藤代先輩は何食わぬ顔でブラックコーヒーをゴクゴクと飲んでいた。

すごい、さすが、苦みも一切感じない人なのかな。

「………い、いただきます」

人生初めてのブラックコーヒーに手が震えた。

震えすぎて蓋が開かない、てゆーかブラックコーヒー関係なしに震えが止まらない。

「…井住さん」

「はいいいっ、大丈夫です!」

自分で言っといて何が大丈夫なのかわからないけど。

「本当はコーヒー飲めないでしょ?」

「!」

カツンと爪で弾かれた蓋は結局開かないままだった。

「すみません、事実に反したことを言ってしまいました…っ!!!」

正座してたついで、頭を下げたら土下座になった。

やばい、どうしよ。

誰も笑ったところは見たことがないって言ってたけど、怒ったところは見たことあるのかな。

無のままの表情はどうなるの?

めっちゃ怖かったらどうしよう…っ!?

頭を下に付けたまま、顔を上げられなかった。



藤代先輩どんな顔してる…?