「って由夢(ゆめ)知ってる?」

愛和(あいわ)高校1年、井住由夢(いずみゆめ)
趣味は少女漫画、特技は…特にこれと言って思い浮かばない。
毎日楽しくない、わけじゃないけど…別に心弾む出来事もない。

毎日普通に過ごしてる。

そんな平凡な高校生。

「何それ?凛空(りく)ちゃん知ってるの?」

有末凛空(ありすえりく)ちゃん、同じクラスの男子。
身長167センチ、あとちょっとで170センチなのに届かないのが悩みらしい。

「聞いた話なんだけど、呟いたこと叶えてくれるらしいよ」

「叶えてくれる?」

「うん、うちの学校のSNS“Speaks”で呟くとその通りのことをしてくれるんだって」

生徒専用非公式SNSアプリ“Speaks”、在学中の生徒しか使えない呟き機能。

使い方はだいたいTwitterと一緒で、いいねやフォローも出来るけど校内っていう狭い世界と身バレのデメリットから使ってる人はあまりいない過疎化進むアプリだったりする。
私なんてインストールさえしてない。

「入学してもう半年ぐらい経ってるけどそんなの初めて聞いたんだけど、てゆーか凛空ちゃんSpeaks使ってたんだ」

「青春リクエスションってタグがおもしろいって聞いたからさー…、ほら見て見て!」

スマホの画面を隣で立っている私に見せてきた。

なんで今立っているかと言えば、現在朝礼中だから。

有末、井住で2列に並ぶ時は隣になる。ちなみにその前に青野さんと朝比奈さんがいる。
前から2番目でこんなやりとりをしている。


“ドキドキしたい!#青春リクエスション”


「…え、そんなザックリしたことでいいの?」

「むしろそれぐらいじゃないとダメなんだよ」

ただでさえ大きな瞳をくりくりさせて熱弁してくれる。よほど聞いてほしかったのか饒舌にペラペラと細かく教えてくれた。

「個人を特定するようなことは聞いてくれないんだって、だからあんま具体的な事は聞いてもらえないんだよ。規模が大きすぎたりお金がかかりすぎるのも無理で、あくまでちょっとだけ楽しいを演出してくれるだけだから。だけど最後にはなんか笑っちゃうような、高校生活楽しかったなって思わせてくれるのが“#青春リクエスション”なんだよ!」

「へぇ、凛空ちゃん詳しいね」

「昨日夜な夜な調べた!今日超眠い!」

#青春リクエスション…

かぁ、誰が何の目的で始めたんだろ。しかも絶対知らない生徒の方が多いだろうな。

さっき凛空ちゃんに見せてもらった呟きも2いいねしか付いてなかったし、こんな過疎アプリでそんなことしても余計シラケるだけだと思うんだけど。

「つーか今日朝礼長くね?」

ふわっとあくびをした凛空ちゃんは話したことに満足したのか眠そうに目を細めた。

「今から新生徒会長の就任式でしょ」

「え、今日だっけ?こないだの選挙のやつ?」

「うん、私その日風邪で休んだから演説聞いてないんだけどどうだったー…?」


次の瞬間体育館中に、きゃーーーーっと黄色い声が鳴り響いた。


凛空ちゃんに向けていた視線をその歓声の先へ、一度瞬きをしてからゆっくり見上げた。




壇上の演台に立つ、1人の男子生徒。




キレイな顔立ちはまるで女の子みたいで、ふわっふわで柔らかそうな黒髪は白い肌によく映えている。





釘付けだった。