あと一歩で階段を上り切る。

すぅっと息を吸って上り切ったと同時、暁先輩にスマホを見せた。

生徒専用非公式SNSアプリ“Speaks”の画面を見せて。


“あなたの好きな人を思いっきり笑わせてほしい#青春リクエスション”


「叶えて、もらえませんか?」

「えっとー、由夢ちゃんこれは…」

「私のリクエストです!青リクメンバーのリクエストは受け付けてませんか?」

暁先輩が困ったように人差し指でポリポリと頬を掻いた。悩んだ表情を見せ、はぁっと息を吐いてから私の方を見た。

「…由夢ちゃんのリクエストを受けることは可能だよ。だけどルールとして、相手を特定してはいけないから“あなたの好きな人”に向けて叶えてあげることは出来ないかな」

「そうですか?…でも“あなたの好きな人”なんて人それぞれじゃないですか!」

これは暁先輩お得意の屁理屈、これだけ一緒にいるんだ私だって覚えてしまった。

これはこんな時使うものでしょ?

そう言われて暁先輩が少し驚いた顔をしたから、にひっと笑てみせた。

「だから暁先輩の好きな人…、花絵先輩のこと笑わせてあげてください。思いっきり、笑わせてあげてください!」


これが私の暁先輩への気持ち、最後に届けたい想い。


いつもは自信満々で胸を張っている暁先輩が視線を落として足元を見た。

「……もうずっとそうしてきてるつもりなんだけどね。笑った顔がもう一度見たくて、…だけどもうどうしたらいいかわからないんだよ」

にこりとも微笑んでくれなかった。

「俺は由夢ちゃんが思ってるほどすごい人じゃないんだ」

眉をハの字に、申し訳なさそうに…謝ってるみたいだった。

「簡単ですよ」

くるっと向きを変えて歩き出す、暁先輩に背を向けて生徒会室までの廊下を歩く。その後ろでゆっくり暁先輩も歩き出した。

「きっと暁先輩が思ってるほど難しくないんですよ」

これまでたくさんのことをやってきた、花絵先輩だって青春リクエスションのメンバーだから。

いつも無表情で時々キツイことも言ってたけど、絶対に嫌とは言わなかった。


楽しかったんですよね?

おもしろいって思ってたんですよね?



だからずっと花絵先輩は暁先輩と一緒にいたんですよね?



花絵先輩しかダメなんです。


花絵先輩にだって暁先輩しかダメなんです。



悔しいけど…


もうすぐ生徒会室の前だ。

暁先輩に微笑んで見せた。

「結局最後は勇気、ですよね!」


私だって好きな人には笑っててほしい。

私の想いが届かなくても、せめて笑っててほしいです。



暁先輩、だからあなたも笑って。