今日はクリスマスイヴ。聖なる夜だ。
　街はキラキラとイルミネーションで煌(きら)めいていて、手を繋いだカップルたちが幸せそうに歩いていた。

　だけど私はここ何年かクリスマスの時期に恋人がいなくて、甘い時間を過ごせていない。
　その代わり、イヴはこのバーに足を運ぶようになった。

　始まりは三年前に遡(さかのぼ)る。
　クリスマス前に当時の彼氏と些細なことで喧嘩になり、そのまま別れてしまった私は、何気なくひとりでこのバーに立ち寄った。

　以前から菖人とは共通の友人を通じて顔見知りの関係だったけれど、その日偶然ここに彼も来たのだ。

　恋人とデートなら良かったのにと、お酒を飲みながら互いに愚痴をこぼす。
　そのうち、私は彼氏と別れた原因のことまで詳細に話してしまった。
　
　甘い夜ではなかったが、寂しさはまぎらわせることができた。
　店を出て駅に向かい、「バイバイ、またね」と言葉を交わして家路に着く。

　来年もここで会おうなどと約束はしなかった。
　逆に、次のクリスマスはお互い恋人同士で過ごせたらいいねと、シニカルな言葉で締めくくったくらいだ。