夜風のような君に恋をした

「……でも、一晩中ここにいるわけにはいかないよな」

「まあ、そうだよね。外だもんね、ここ」

すると冬夜は、欄干から肘を離し、私から視線を外しながら言う。

「だから、部長の俺が家までついて行ってやるよ」

「……え? 冬夜、部長だったの?」

「発案者なんだから、部長に決まってるだろ」

「じゃあ私は副部長?」

「そういうことでいいよ」

照れ隠しなのか、どこか突き放すようにそう言うと、冬夜は私に背を向けて歩き出した。

「どこ行くの?」

「言っただろ? 家までついて行くって。それなら帰れるだろ?」

冬夜から発せられた思わぬセリフに、目を瞠る。

「帰る……?」

だけど私はその言葉を口の中で反芻し、そして背中を震わせた。

冬夜が一緒にきてくれたら、恥ずかしいけど心強い。

だけどそんな気持ちすらあっという間に打ち消すほど、昨日の夜の惨事は私にとって衝撃的だった。

底なし沼の奥深くに沈んでいるようななあの家になど、もう帰りたくない。

思わず固まってしまった私を、冬夜が振り返る。

その視線は、やがて小刻みに震える私の手に注がれて――。

冬夜はハッとしたように、速足で私の前へと戻ってきた。

「ごめん。帰るって言ったって、そんな簡単なことじゃないよな」