夜風のような君に恋をした

お兄ちゃんの叫び声や泣き声、何かを壁にぶつける音は、その後も続いた。

なだめるお父さんの声がしたけど、すぐにまた、獣の唸りのような喚き声にかき消される。

その繰り返しだった。

聞いているだけで、胸の中をナイフでかき混ぜられているような、今すぐなりふり構わず泣きじゃくりたいような気持になる。

私はリビングのソファで毛布にくるまり寝転がりながら、暗い夜が明けるのをひたすら待った。だけどいつまでたっても、お父さんとお母さんは下に降りてこない。

二時間もすると、天井からの物音が、ようやく聞こえなくなった。ようやく、お父さんとお母さんが階段を下りてくる音がする。

先ほどまでお兄ちゃんが響かせていた音とは対極的な、静かすぎる足音だった。
ふらつきながら降りてきたお母さんの顔は、今にも倒れそうなほど憔悴していた。

お父さんは深いため息をつきながらダイニングテーブルの椅子に座ると、頭を抱えてうつむく。

「うう、ううう……」

キッチンの隅で、こちらに背を向け、お母さんが泣いている。

ふたりとも、何も喋ろうとしない。

リビングの電気をつけようともしない。

このまま闇に沈んでしまうんじゃないかと本気で思うほどに、何もかもが淀んでいて暗かった。

その場にいづらくなって、私はそうっとソファから抜け出すと、足音をたてないようにして階段を上る。

そして、絶句した。

二階の廊下に、お兄ちゃんが放り投げたものが散乱していたからだ。