夜風のような君に恋をした

私はかろうじて頷くと、お父さんとお母さんに背を向け、階段を下りる。

間もなくして「何があった? 入るぞ」というお父さんの声がした。

ほぼ同時に響いた、バンッ、とお兄ちゃんの部屋のドアが開かれる音。

パンドラの箱を開けてしまったかのような、ぞっとする感覚が、背中を走った。

「どうして……っ!」

久々に聞いたお兄ちゃんの声は、闇に沈んだ家の中で、怖いほど大きく響いた。

『夜になったら、外にはこわいお化けが出るんだぞ』――幼い頃、そう言って私をからかった、無邪気な声とはまるで違う。

聞いているだけで泣きたくなるような、悲痛な叫び声だった。

「どうして何も言ってくれなかったんだよ……っ!」

お兄ちゃんの声って、こんなだったっけ。

そ知らぬふりをして階段を下りながら、私はそんなことを思った。

こんなに、悲しそうだったっけ……。