夜風のような君に恋をした

お兄ちゃんが引きこもりになってから、お母さんは目に見えて元気をなくした。

私の前では明るく振舞おうとはしてるけど、ふとした表情の暗さにはずっと前から気づいていた。

そのうえ私が第一志望の高校に落ちてから、お母さんはときどき夜中にこっそり泣くようになった。

リビングから漏れ聞こえる押し殺したような泣き声を耳にするたびに、私は胸が締めつけられ、消えてしまいたい衝動に駆られる。

忙しいうえに寡黙なお父さんは、お母さんの心を癒してあげられない。

弱ってしまったお母さんを支えられるのは、私だけなんだ。

だから私は、今日もいい子を演じる。

今度こそお母さんの望む大学に受かるよう、勉強を頑張って、いい成績をキープする。

お兄ちゃんとは違って、学校生活も順調にいっているフリをして、この家族で唯一、お母さんの料理に『おいしい』って笑顔で反応する。

死にたいなんて気持ち、絶対に、絶対に、表に出しはしない。