夜風のような君に恋をした

あれは、いつだっただろう。

まだ小学生だったから、五年か六年前くらい。

ある日をきっかけに、お兄ちゃんは急に学校に行かなくなった。

『あれ? お兄ちゃんの靴、まだあるよ? 学校行ってないの?』

『それがね、ちょっと体調がよくないみたいで、今日は学校休んだの』

『そうなんだ。ふーん』

まあそういうこともあるのだろう。

そう思って、初日は特に気に留めなかった。

だけどその次の日も、その次の日も、玄関にはお兄ちゃんの泥で薄汚れた通学用の白のスニーカーがあって……。

気づけば秋も深まり、コートを着るような季節になってしまった。

閉じたまま開かない、お兄ちゃんの部屋のドア。

サッカーが大好きで明るかったお兄ちゃんは、息を潜めてじっとしているだけの、未知の生き物になってしまった。

はじめはもちろん心配だった。

何があったんだろうとは思ったけど、お母さんは落ち込んでるし、聞くに聞けなくて……。

そのうちお母さんはイライラしやすくなって、少しでも私のテストの点数が悪かったら、厳しく叱ったり、泣きそうな顔をしたりするようになった。

『学校ではうまくいってるの?』 

『塾の勉強、ちゃんとついていってる?』

『友達とはちゃんとやってるの? いじめられたりしてない?』

私にそういったことを聞いてくるときのお母さんは、口調は普通でも、目つきが何かに駆りたてられるような焦りを帯びていた。

やがて私は、自ずと自覚するようになる。

テストでいい点数をとらないといけない。成績が下がってはいけない。