夜風のような君に恋をした

「そういえば、今日はまだ聞いてなかったな、“今日あったいい出来事”」

「ああ、うん」

我に返ったように、雨月が言う。

「雨月からでいいよ」

「私から? うーん、そうだな」

雨月は何かを言いかけ、そして言葉を飲み込むように一度口を閉ざす。

それから、恥ずかしそうに早口で言った。

「さっき、かわいい猫とすれ違ったこと。次は、冬夜ね」

「俺は……」
 
雨月の笑顔が見れたこと。

そんな言葉が喉元まで込み上げてきて、慌てて唇を固く結んだ。

そんなこと、言えるわけがない。

「……“かっぱらっぱ”のお菓子、もらったこと。弟にあげたけど」

「“かっぱらっぱ”って、あのほんわかしたアニメ? 懐かしくない? 誰にもらったの?」

「友達」

“かっぱらっぱ”のスナック菓子をくれたのは、一輝だ。

コンビニで見かけて、思わず買ったらしい。『俺、河童って昔から好きなんだよね』というどうでもいいような情報と一緒に。

「何それ、今さら?」

そう言ってまたほんの少し彼女が笑う。