夜風のような君に恋をした

淡々としているけど、彼女が必死に怒りを押し殺しているのが、見ているだけでわかる。

引きこもりの兄に対して?

それとも、はき違えた愛情を注いでくる親に対して?

なぜだか、ズキズキと胸が痛い。

俺はふと、ときどき廊下ですれ違う時の宵の顔を思い出した。

小さかった宵も、もう小五だ。

最近は親といっさい口を聞かない俺に違和感を覚えてきたようで、前ほどは話しかけて来なくなった。

その代わり、チラリと気遣うような目で俺を見ることがある。

雨月と同じように、宵にとっても、俺という存在は意味不明で重荷だろう。

そう考えたら、急に雨月のお兄さんに同情心が芽生えた。

「多分お兄さんにはお兄さんで、苦しんでるんじゃないかな。学校に行けなくなるなんて、よっぽどだ」

「そんなことないよ。私だって、あんな窮屈な場所に行きたくない。それでも行かないと周りに迷惑かけるから、どうにかして行ってる。お兄ちゃんは弱虫でワガママなだけだよ」

雨月のその言葉は、宵からの俺への言葉のように聞こえた。

まるで自分に言われたみたいに胸が痛くなって、しばらくの間、返す言葉を失う。

「冬夜だってそうでしょ? 学校なんて、本当は行きたくないんじゃない?」

まるで俺の心を見抜いたみたいに、雨月が言う。

「本当の冬夜は口が悪くて死にたがりなのに、友達の前では爽やかを絵に描いたみたいな人じゃない。演じるの、疲れるよね」

「学校での俺なんか見たことないくせに、なんでわかるんだよ。まあ、当たってるけど」

すると雨月はキョトンとした目をしたあとで、「私がそうだから、何となく?」と不自然な笑い方をした。