夜風のような君に恋をした

「私も一緒。あの家、居づらいの」

ぽつんと、今度は雨月がつぶやく。

俺は自分の腕に顎を乗せたまま、彼女の方を見た。

肩下までのまっすぐな黒髪に、少し切れ長の目と、黒い瞳。

目をひくような美人じゃないけど、不思議な吸引力がある。少なくとも俺の目には、そう見えた。

「お兄ちゃんは高校で不登校になってから引きこもりで、もう二十歳過ぎてるけど、働いてもいない。そんなお兄ちゃんにお母さんは絶望してて、私に過度な期待をかけてくるの。私はお母さんを裏切らないように懸命にやってきたけど、家に帰ると息が苦しくなるの。あの家は、本当の私を求めていないから。お兄ちゃんのマイナスを打ち消してプラスに変えてくれるような存在が欲しいだけだから」

意外な彼女の家庭事情に、俺は興味を引かれた。

「お兄さんが引きこもりって、どうして? 原因は?」

「わからない」

雨月は、うんざりしたようにかぶりを振る。

「私には意地悪だったけど、親や友達の前では明るくて冗談ばかり言うような人だったの。だけどいつからか、学校に行かなくなって、親とも口を聞かず、家に引きこもるようになって……。気づいたら取り返しのつかないことになってた」

そう一気にまくし立てた雨月の口調は、語尾にいくに従い震えていた。