夜風のような君に恋をした

何も言わずに俺の隣にいてくれる彼女の髪が、夜風にそよぐのを見るのが好きだから。

「どこにも居場所がなくて、やるせなくてどうしようもなくなったとき、俺はばあちゃんの住んでるマンションを、こうやって見に来るんだ。あそこに行けばきっと、ばあちゃんは俺を受け入れてくれるから」

欄干に腕を置き、顎を乗せる。そして会った記憶のないばあちゃんに、思いを馳せた。

俺の本当の母さんの母さんだ。

他人の恵里さんなんかより、よほど大手を広げて受け入れてくれるだろう。

『よく来たね。会いたかったよ』――そんな風に俺を出迎えてくれるんじゃないだろうか。

家の中に入れてくれて『夕飯食べていく?』って声をかけてくれて。

そのうち母さんが小さい頃のアルバムなんかを持ってきて、思い出話なんかを語り出すんだ。

きっと、素晴らしい時間になるはずだ。

そんな淡い想像だけで、俺は身の置き所のない不安定な自分を支えてきた。

毎夜のように、この場所で、マンションを眺めながら。