夜風のような君に恋をした

だけど俺はそのとき、雨月になら、自分のことを話してもいいと思った。

誰にも話したことのない秘密を。希薄な関係だからこそ、似た者同士だからこそ、雨月にだけは話せると思ったんだ。

「あのマンション、俺の母さんの実家なんだ。今はばあちゃんがひとりで住んでる」

「ふうん。おばあちゃんち、よく行くの? うちは遠いから、あんまり行かないな」

「俺は一度も行ったことないよ、母さんは俺が赤ん坊の頃に亡くなってるし」

一瞬、彼女が息を呑んだ気配がした。

「そうだったんだ」と気のない風な返事をした彼女は、この話にもっと踏み込んでもいいのか、それともしない方がいいのか、考えあぐねているようだ。

「今の家、居づらいんだ」

夜の闇に向かってぽつんと吐き出す。

糸で引かれたように、雨月が俺を見るのがわかった。

「父さんは再婚してて、新しい奥さんとの間に、宵っていう子供がいる。だから俺は、父さんの家族の家に間借りしてる、赤の他人のような気でいる」

お互い死にたい理由を詮索しない。

”死にたがりこじらせ部”を作った時、そんな奇妙な条件を出したけど、自わから匂わせる分には構わないだろう。

あのときは、俺たちの間の距離感は埋まらない方がいいと思っていた。

だけど今は、少しだけ近づいてもいいかなと思ってる。

雨月が語る、“今日あったいい出来事”を聞くのが好きだから。