夜風のような君に恋をした

俺は視線の先のマンションを指差した。

「え、どれ?」

「薬の看板があるビルの隣の……」

「ああ、あれ」

うっすらと、戸惑いの表情を浮かべる雨月。

無理もない。

わざわざ遠目に眺める必要もないような、普通の建物だからだ。

薄汚れていて、これといった特徴もなく、印象にも残らない。

立ち並ぶ新しい建物の群れに埋もれてしまいそうな、ありふれたマンション。

俺は、チラリと横目で彼女を見た。

お互い死にたがりということと、下の名前しか知らない俺たちには、ある一定の距離感がある。

暗黙の了解で、俺たちはお互いのことに深くは踏み込んではいけないと思っている。

もしかしたら、明日にはどちらかがこの世にいないかもしれない。

それなら、希薄な関係でないといけない、そうである方が望ましい。

俺たちを繋いでいるのは、死にたがりという、なんとも消極的な共通点なのだから。