夜風のような君に恋をした

他人事とは思えなかった。

そしてどういうわけか、胸の奥から沸々と怒りが込み上げた。

何があったか知らない。

だけど結局のところ、彼女にとどめを刺したのは、彼女自身なんだ。

俺だってそうだ――自分で自分を追い込んで、消えたがっている。

俺のいなくなった世界では、俺の存在証明なんて、あっという間に風化してしまうというのに。

まるで自分を見ているようで、耐えられなかった。

気づけば俺は、彼女の腰に両腕を回して力強く引き寄せ、引き離すようにして欄干から遠ざけていた。

彼女の背中が、体に密着する。

サラサラの黒髪から、シャンプーのような石鹸のような香りがふわりと鼻先に漂った。

『あの……』

振り返った彼女が、目を見開く。

知らない子だったけど、なぜか、遠い昔から彼女を知っていたような気もした。

俺の腕の中で、華奢な体が小刻みに震えている。

『死ぬつもりだったの?』

『そんなつもりじゃ……。夢中になって景色を見てたら、体が前のめりになってしまって』