夜風のような君に恋をした

その言葉を耳にしたとき、ドキリと胸が鳴った。

そのときの俺の気持ちを、彼女が代弁したかのように思えたからだ。

おぼつかない足取りで欄干に手をかけた彼女は、すぐ隣に俺がいるというのに、気づく気配がない。

吸い込まれるように、じっと、ただひたすらじっと、夜の道路を見下している。

それほど、切羽詰まった状況だったのだろう。

みるみる、前のめりになる彼女。

あっと思った時にはもう、彼女の上半身は大分欄干の外に出ていて、今にも地面から足が離れそうになっていた。

ひやりと、背筋を冷たいものが流れる。

同時に、死と直面している彼女の姿を目の当たりにして、忘れていたはずの恐怖心が込み上げた。

今まさにこの瞬間、彼女の人生が終わろうとしている。

風船を針で刺したときみたいに、パチンと、一瞬で消え去ろうとしている。

きっとこのまますべてが弾け飛んで、彼女の楽しかった思い出も、つらかった思い出も、大事な思い出も、なにもかもが跡形もなく消滅するのだろう。

あとには、彼女という人間のいなくなった世界が残されるだけ。

流れる車も、すぐに元通り動き出すだろう。

彼女の学校も、一日一日と、また退屈な時を刻んでいく。

まるで、彼女なんてもともといなかったかのように。

――なんて切なく、悲しい現象だろう。