夜風のような君に恋をした

「そうよ。雨月のために作ったの。パンケーキ、好きでしょ?」

「うん。ママ、ありがと」

お母さんに笑顔を向け、パンケーキをひと口食べた。

「ん、おいしい」

「でしょ? 雨月ホイップつけるの好きだけど、切らしてたからごめんね」

お父さんはすでに仕事に行ったらしく、席には食べ終えたお皿が置いてあった。

お兄ちゃんの席には、いつも通り手をつけていない朝食がそのまま置かれている。

「そういえば塾の定期テスト、あさってでしょ? 勉強はかどってる?」

「うん。だいたいいけると思う」

「そう、ならよかったわ。前は少し成績が下がってたけど、今度は目標偏差値超えられそう?」

「多分大丈夫、心配しないで」 

にっこり。

笑い慣れているから、表情筋も柔らかい。

掃き出し窓の向こうの空は、澄んだ水色だ。

テレビの中のお天気キャスターが、今日は真夏日並みの気温になるからと、熱中症注意を促している。

いつものお天気キャスターの、いつもの明るい声。

お皿にフォークとナイフが当たる音と、お母さんが食器を洗う音が、清々しい朝のリビングに響き渡る。

ごくありふれた、幸せな家庭の、朝の風景だ。

だけど私は、スタジオのキャスターと笑いながらやり取りしているお天気キャスターを見ながら、自分の心がみるみる干上がっていくのを感じていた。

――ああ、しんどい。

私以外にも、この世にいるのだろうか。

幸せなフリして朝ご飯を食べながら、死にたい気持ちに押しつぶされそうになっている高校生が。