夜風のような君に恋をした

秋の気配を思わせる夜風が、出会って間もない私たちの間を流れた。

ふと見上げた真っ黒な空には、細い三日月が浮かんでいる。

こうやって夜空を仰ぐのは、いったいいつぶりだろう。

いつも、せわしない夜の物音に気を取られてすっかり忘れていた――夜空がこんなにも静かだということを。

そんなことを思いながら頬で夜風を感じていると、ふいに彼が突拍子もないことを言い出した。

「そうだ、”死にたがりこじらせ部”を作らない?」

一瞬、風の唸りによる空耳かと思った。

だけどいつの間にかこちらを見ていた彼の目の奥は、真剣そのもので。

気づけば私は、何年かぶりにプハッと吹き出していた。

「なにそれ? どういうこと?」

「文字通り、死にたがりをこじらせてる人が集う部活だよ。とりあえずの部員は、君と俺」

なぜか誇らしげに彼が言う。

「何をする部なの?」

「死にたがり同士で語り合うんだ。死にたがりの自分を大事にできるように」

「死にたがりの自分を大事にできるように?」

「うん、そう」

死にたがっている時点で、自分を大事になんてできていないと思うんだけど……。

彼のそのセリフは矛盾だらけだったけど、不思議と私は彼を変だとか、冗談だとかは思わなかった。