夜風のような君に恋をした

欄干に両腕を乗せて夜の道路を眺めながら、しどろもどろに彼が言う。

「――あのとき、我に返ったんだ。君にかけた言葉は、自分で自分に言いたかった言葉なんだって気づいて」

なに、それ。

ポカンとせずにはいられない。

あの言葉に突き動かされて、私は今日ほんの少し自分を変えることができたのに、それを言った彼の方が重度の死にたがりだったなんて。

「……死にたがりって、人のこと言えないじゃない」

「うん、そう。きっと俺は、本当の意味では死にたくないんだ。この世界に絶望しきれていないんだろう。死にたがりの気持ちをこじらせてるだけで」

流れる夜の景色から目を離さずに、そんなことを言う彼。

気まずさを誤魔化すように鼻をすすりながら、どこかバツが悪そうな表情を浮かべている。

まじまじと見つめていると、「何だよ」と不機嫌そうに睨まれた。

その顔が拗ねた子供そのもので、遠い存在だった彼が、急にぐいっと近くに寄ってきたかのように思えた。

毎朝電車で見ながら思っていた“別次元のきれいな人”という印象がどこかに弾け飛ぶ。