夜風のような君に恋をした

お礼さえ言えたら、一目散にこの場から立ち去ればいいのだ。

「あの――」

「ああ、この間の死にたがり」

スッと細められたアーモンド形の目。

当然のことのように言われ、みるみる顔に熱が集まる。

怒っちゃダメだ、とにかく、ちゃんとお礼を言わないと。

「……おとついは、助けてくれてありがとうございました」

早口で言うと、私はペコリと頭を下げた。

そのまま、彼をチラリと見上げる。

すると、少々面食らったような表情が目に飛び込んできた。

「ああ、うん……」

しばらくの沈黙の後、彼はしどろもどろに返事をした。

「お礼を言われても困るんだけど……。死ぬのを止めたりして、こっちこそごめん」

「だから、死ぬつもりはなかったんです! 死にたいって思ってたのは事実だけど……」

この人しつこいな、違うって言ってるのに。

どうしてこんなにも、腹が立つことばかり言うんだろう。

他人の前で自分を演じるのすら忘れ、怒り半ばで声を荒げた私を、彼はキョトンと見つめ、それからすぐにまたあの意地悪な笑い方をした。