夜風のような君に恋をした

夜九時過ぎ、塾からの帰り。

定期テストの出来がそう悪くなかった安堵から、心なしかすっきりとした気分で帰路についていた私は、高架を上るなり足を止めた。

高架の真ん中、おとついと同じ場所に、彼がいたからだ。

水色のYシャツにボーダーのネクタイ、紺色のズボン。

けだるげに欄干に両腕を乗せ、じっと高架の下に顔を向けている。

彼の視線の先では、煌々と輝く車のヘッドライトが、暗闇に沈む二車線の車道を流れていた。

たしかに、彼にちゃんとお礼を言わなきゃとは思った。

だけど、まさか今日もいるとは思わなかった。

今の塾には中二から通っているけど、今まで一度も彼に出くわしたことがなかったから。

私は大きく息を吸い込むと、両手でぎゅっと学生鞄を握り直す。

決意を固め、一歩一歩彼の方へと近づいた。

物憂げに夜の景色を見つめている彼は、私に気づく様子がない。

ただずっと、ひたすらずっと、流れる光に視線を落としている。

一定方向に一定間隔で消えていく、夜の光。

蛍を連想させるそれは、美しいようでいて、どこか儚い。

サラサラの前髪が、秋の香りを孕んだ風に緩やかにそよいでいる。

こうして横から見ると、彼はやっぱりきれい。

それにしても、こんな夜に、彼は高架の真ん中で何をしているんだろう? 

一駅先から電車に乗ってくる彼は、この界隈には住んでいないはず。

どうしてわざわざ、こんなところまで来たのだろう?

ぼんやりとそんなことを思っているうちに、私たちの間を通り抜けた夜風に呼ばれたかのように、彼がこちらに顔を向けた。

夜の闇によく似た黒い瞳と、ばっちり視線が合う。

相変わらず冷ややかな彼の視線は明らかに私を歓迎していなくて、衝動的に逃げ出したくなったけど、命を救われたわけだから、とにかくお礼だけは言おうと自分を奮い立たせた。