夜風のような君に恋をした

「どこのカラオケにする? 前行ったとこでいい?」

「クーポンあるから、今日はここ行ってみない?」

チラリ、と時折こちらに顔を向ける彼女たちは、明らかに諏訪さんを待っている様子だった。

なんだ、家庭の用事って嘘か。といっても、これもよくあるパターンだ。

小さく息を吐くと、いつも通り、いいよと答える準備をする。

だけど――。

――『自分をかわいそうにしているのは、本当は周りじゃなくて自分自身なんだから』

突然、昨日の夜の彼の言葉が、憎々しいその顔とともに、頭の中によみがえった。

とたんにムカッとして、開きかけた口をぐっと引き結ぶ。

「佐原さん……?」

何かを言いかけて突然やめた私を、諏訪さんが訝しげに見ている。

私は諏訪さんからやや視線をずらしながら、「……ごめんね」と小さく吐き捨てた。

「今日は、私も、大事な用事があるから」

それから机の上の学生鞄を手に取ると、くるりと踵を返し、逃げるようにして教室を去る。

怖くて後ろを振り返ることができなかった。

「どうだった? 代わってもらえた?」

「ええっ、ダメだったの!?」

廊下をぐんぐん進みながら、背中でそんな声を聞いた。

今までは断るなんて選択肢、思いつかなかった。

お母さんが望むように、クラス中の生徒から好かれるために、すべてを受け入れないといけないと思っていた。

いつもニコニコしていて、悪口を言わず、頼みごとも断らない人は、誰とでもうまくやっていけるはずだから。

そもそも器用な方じゃないから、いい人ぶる以外、学校でうまくやっていくすべを知らなかったのもある。