夜風のような君に恋をした

それも、初めて会った人なんかに。

「え……? そんなこと、言ったつもりはないです。気のせいじゃないですか?」

私はすぐさま笑顔を浮かべ、危機的なこの状況をやり過ごそうとした。表情筋は柔らかいから、こんなときでも、嘘笑いはお手の物だ。

すると彼は、じっとりと訝しげな目つきになる。

「でも、階段上ってきたときからずっと、今にも死にそうな顔してたけど」

「……見てたんですか?」

「まあね。なんかヤバそうな人いるなって」

私、そんな変な顔してただろうか。

急速に恥じらいが込み上げてきて、こらえるように、スカートをぎゅっと両手で握り締めた。

笑わなきゃ、誤魔化さなきゃ。

がんばれ、自分。

「そんなヤバい顔してました? 塾で疲れてたからかな」

表情筋は柔らかい方だと思っていたんだけど、今は笑顔が引きつっているのがわかる。

目の前にいる彼が、私のすべてを見透かすような、冷ややかな目をしていたからだろう。