夜風のような君に恋をした

いつも閉ざされていた、まるで海の底で眠っている貝のような、お兄ちゃんの部屋のドアを思い出す。

家族をめちゃくちゃにした自分勝手なお兄ちゃんが、私は大嫌いだった。

お兄ちゃんも、私のことなんてどうでもいいのだろうと思っていた。

だけど本当は、ずっとずっと、心苦しかったのかもしれない。

胸に熱いものが込み上げ、思わず目元を潤ませている私を、冬夜はやっぱり優しい眼差しで見つめている。

その瞬間、脳裏に白い閃光が弾け、これまでの記憶が雪崩のごとく頭の中に流れ込んできた。

お兄ちゃんがトラックに轢かれたという連絡を受け、お母さんとお父さんと一緒に慌てて病院に向かった、あの夜。お兄ちゃんは幸い数針縫うだけで済んで、ホッと胸を撫で下ろした。

お兄ちゃんは、その後高校を卒業して、地元の大学に進学した。

大学に受かったとき、家族でケーキを用意して、盛大にお祝いしたのも覚えている。

お兄ちゃんはいつも笑っていて、明るくて、楽しそうだった。

そして私は、“お兄ちゃんの友達の市ヶ谷くん”に何度か会ったことがある。

軽く会釈する程度で、会話をした記憶なんてほとんどない。

もちろん、お兄ちゃんと同い年の彼を特別視したことなど一度もなかった。

だけど、今は違う。