夜風のような君に恋をした

「じゃあ、俺駅まで戻るから。市ヶ谷、ここで解散でいい?」

「いいよ。また飲みに行こうね」

「おう。雨月も早く帰れよ」

ブンブンと片手を振りながら駅の方へと遠ざかっていったお兄ちゃんは、人ごみにまぎれてあっという間に見えなくなる。

まだ頭で整理できていなくて、私はお兄ちゃんが消えていった方向を、しばらくの間呆然と眺めていた。

「一輝は覚えていないんだ、五年前に雨月を助けたこと」

ふいに落ちてきた、彼の声。

そのひと言で私は、彼が私たちの身に起こった不思議なすべてわかっているのだと確信した。

「私を、助けた……?」

ひとつ、頷いて。

あの頃よりも大人びた冬夜が、話を続ける。

「あのとき、俺を庇った雨月を、塾帰りにここを通りかかった一輝が助けたんだ。一輝は跳ねられたけど、幸い軽症で済んだ。でも、雨月がいたことは覚えてなかった」

それから、優しい眼差しを私に向けてくる。

「だけど俺は思うんだ。きっと一輝は、無意識のうちに、見えないはずの五年後の君を助けたんだろうって」

「お兄ちゃんが、私を……?」