夜風のような君に恋をした

「さっきまで、市ヶ谷と駅前で飲んでたんだ。会ったことあるよな? あれ、なかったけ?」

目の前で起きていることが信じられなくて、私はしばらく今の状況を飲み込めないでいた。

だけどそのとき、呆然としている私に向かって、彼が微笑んだから。

私が動揺している理由のすべてをわかっているかのように、優しく微笑んだから――。

私はかろうじて、首を縦に振ることができたのだ。

「……会ったこと、ある」

「やっぱそうだよな? ていうかお前、市ヶ谷のこと見すぎだろ。久々に見たらイケメンで驚いた?」

冗談めかして明るく笑うお兄ちゃん。

「それもあるけど……お兄ちゃんにも驚いた」

「なんでいつも会ってる俺に驚くの? 今日のお前、やっぱ変だな」

お兄ちゃんが、声を上げて笑う。

知らなかった。お兄ちゃんは、酔うと笑い上戸になるらしい。

それに笑うと、頬から顎にかけて走った傷がゆがむようだ。

今までのお兄ちゃんにはなかったもので、やっぱり違和感がある。