夜風のような君に恋をした

……――どこか遠くで、クラクションの音がした。

ハッと目を開けた私は、今の状況が呑み込めず、呆然と固まった。

何事もなかったように車道を流れる車、通り過ぎてはまたやってくるヘッドライトの光。

信号機の赤や青、そして暗闇の中煌々と輝く、色とりどりの店舗看板。

そんないつもの、何の変哲もない平穏な夜の街の真ん中に、私はひとり立ち尽くしていた。

手も足もピンピンしていて、どこも痛くない。

トラックに轢かれた形跡なんて、まったくない。

そして、そばにいたはずの冬夜の姿も……どこにも見当たらなかった。

だけど右の掌には、まだ彼の温もりが残っている。

私のよりも大きくて、すこし骨ばった手の感触も、はっきりと覚えている。

それなのに、彼はどこにもいない。

見上げたら、真っ暗な夜空には半月が浮かんでいた。

今宵も月は、ただ静かにせわしない夜の景色を照らしている。

冬夜と一緒にいたときは、たしか三日月だったはずなのに……。

どうやら、五年後の夜に戻ってきてしまったようだ。