昼より夜の方が好きだった。

子供の頃からそうだ。

昼間とは違う、神秘的な世界。

小さかった俺は、見えない闇の向こうを想像しては、恐怖におびえ、そして興味を持った。

花火大会の後、人の喧騒が遠のいた河原を覆う、どこまでも深い闇色。

友達の家からの帰り、見慣れたはずの公園を別の場所のように見せていた、澄んだ夕暮れの群青色。

夜は奇妙で魅力的だ。

そして昔から、俺は自分でも驚くほど、夜になると心が落ち着いた。

見慣れた景色を、いつもとは違う姿に変えてくれる夜という時間は、不安にまみれた弱い俺の心を開放してくれた。

だからだろうか、初めて死にたがりの彼女に会ったとき、夜という特別な時間が出会わせてくれたんだと、心のどこかで素直にそう感じていた。

高架の白い欄干の手前に立ち尽くす彼女の、肩までの黒髪と、灰色のプリーツスカートが、風に煽られ微かに揺れていたのを、今でもはっきりと思い出せる。

一瞬、夜の妖精が目の前に現れたのかと本気で思ったのは、彼女には永遠の秘密だ。