夜風のような君に恋をした

私はベッドから降りると、ふらつきながら、暗い廊下に出る。

薄闇の中、今日も静かに浮かび上がっている、お兄ちゃんの部屋のドア。

どこにでもありそうなシンプルなそのドアが、今日は何だか、泣いているお兄ちゃんの背中みたいに見えた。

ドアの近くに寄り、コンコンとノックをする。

もちろん返事は返ってこないけど、構わずに、ドアの向こうに声を放つ。

「お兄ちゃん、今までごめんね」

いろいろなことを、お兄ちゃんのせいにしてごめん。お兄ちゃんもつらかったのにね。

お兄ちゃんは意地悪だけど、本当は優しい心を持ってるってこと、知ってる。

だってあのときの掌、ベトベトだったけど、あったかかったから――。

中からは、やっぱり返事がなかった。

いつも以上に、怖いくらいに静まり返っているドアの向こう。

だけどそのとき私はなぜか、ドアの向こうのお兄ちゃんがしっかり私の声に聞き耳を立てているような気がしてならなかった。