夜風のような君に恋をした

圧巻の演技力で私を騙すことに夢中になっていたお兄ちゃんだったけど、あるとき、観念したように謝ってきた。

夜に外食に行く日で、私が断固として行きたがらなかったから、お母さんとお父さんに怒られたみたい。

――『お化けがいるなんて嘘に決まってるじゃん。だからもう怖がるなよ、悪かったって』

だけど私はお化けはいるってすっかり信じ込んでしまっていたから、そのときのお兄ちゃんの謝罪を受け入れようとはしなかった。

それくらい、闇というものはドロドロとして先が見えず、子供心にお化けの存在を感じさせたのだ。

――『おばけはいるよ』

――『だから嘘なんだって』

――『いる』

――『もー、めんどくせえな』

ため息を吐いたお兄ちゃんが、私の掌を握る。

お兄ちゃんの手は私の手よりほんの少し大きくて、ちょっとベトベトしてた。

――『いいか。お化けはいるかもしれない。だけどこうして誰かと手を繋いでたら、大丈夫なんだっていう特別ルールがあるんだ。だから俺が手を繋いでやろう』

――『いやだ』

――『どうしてだよ』

――『お兄ちゃんの手、ベトベトしてるんだもん』

――『……お前、本当にめんどくさいな』