夜風のような君に恋をした

お母さんの作ってくれたお粥を食べて、風邪薬を飲んで、私はベッドに入った。

熱でぼうっとしているのに、先ほどのお母さんとのやり取りが頭から離れなくて、眠ることができない。

勝手に引きこもりになったお兄ちゃんなんて、大嫌いだった。

私に迷惑をかけて、お母さんを悲しませて、いい年になっても大学にも行かず家でじっと息を殺している。

家族にとっての厄介者としか思えなかった。

だけど今、突然お兄ちゃんという孤独なひとりの人間の姿が、頭の中にモヤモヤと浮かび上がってくる。

――私、何も知らなかった。

お兄ちゃんが、これほどの苦しみを抱えながら、生きていたなんて。

身勝手なのは、うまくいかない何もかもを周りのせいにしていた、私の方だったのかもしれない。

窓の向こうが夕焼け色に染まり、やがて闇に染まっていく。

ようやくうとうとし始めた私は、パタンというドアの音に気づいて再び目を開けた。

どうやら、お兄ちゃんが帰ってきたみたい。

カーテンの隙間から窓の向こうに見える丸い月を眺めながら、私は風邪薬のせいでもうろうとした頭で、遠い昔のお兄ちゃんとの会話を思い出していた。

――『夜になったら、外にはこわいお化けが出るんだぞ。本当だぞ。おれ、何回も会ったんだからな』

あれは、たしかまだ三歳の頃だった。

私はお兄ちゃんのその言葉に怯え、一時期は窓の外が暗くなっただけで泣きじゃくるくらい、手に負えなくなった。