部屋から咄嗟に逃げ出したリゼを俺は追いかけることなく、ただしれっとした顔で見送った。


あの顔からして経験がないに等しいと見た。


あんな間抜けでどこか抜けている彼女でしかないと言うのに、意外な一面を見て少しだけ面白くなった……最初はただそれだけだった。


それだと言うのに、彼女が放った自分が全ての元凶だとでも言いたいかのような、あの言葉にイラついている自分がいた。


空のグラスに部屋に備えられたレモン水を注ぎ込み、何かが揺らぎそうな所に水を滴らせれば器用に揺らいでいた何かを鎮める事ができた。


眠気眼で呆気に取られたかのような顔をするフェイムに、少しだけ腹が立っているのはどうしてだろう。


一つため息を零して、夜空に浮かぶ月を見つめながら気持ちを落ち着かせることしかできなかった。


ただこの旅が早く終わればいい、そうしたら変に感情も動くことはない。


そう願う自分がいるというのに、願いを押しのけようとするもう一人の自分がいる。


――旅の中で感じたことの無い気持ちを与えてくれる、リゼと共に色々な景色を見たい、なんて馬鹿げた気持ちを持った俺が。


「フェイム、俺たちも寝よう」


これ以上考えたら何かが爆発すると判断した俺は、感情を振り切って寝床へと足を向けたのだった。