どこから聞いていたのかは知らないけれど、確かに今朝はそんな話をしていた。

 ハッキリ家を出たとか別の場所に住んでるとかは言ってなかったけれど、あの後で優姫さんに聞いたのかもしれない。


 そんな風に納得していると、いつもより少し低くなった声で「ねぇ」と話される。

「ん? 何?」

 声の低さにわずかな疑問を抱きつつも金多くんを見上げると、今朝垣間見た妖しい眼差しが見下ろしていた。

 ゾワリと鳥肌が立つ。


「もしかして今住んでるところって……兄さんのところ?」

「っ!……あ……」

 答えていいものか迷う。

 妖しく揺れる眼差しが怖い。

 知らず呼吸が荒くなって、思わず後退りしてしまった。


「義姉さん!」

 そこに眞白の声がして、すぐに彼が近くに来てくれる。

「ごめん、遅くなった。日誌とか出さなきゃなかったからさ」

 その言葉に、そういえば今朝日直だとか言っていたっけと思い出す。

 それで今の時間に来てくれたのなら、かなり急いでくれたんだろう。


「いいよ、そんなに待っていないし」

 眞白が来たことでホッとしたわたしは、呼吸ももとに戻せてそう言った。

「今日は買うもの多いんだろ? 早く行こう」

 眞白は言うが早いかわたしの手を取り歩き出す。

 金多くんには「じゃあね兄さん」とだけ言い残しわたしを引っ張っていく。


「ああ、じゃあまた明日」

 そう言って爽やかに手を振る金多くんはいつもの王子様のように見えて、さっきのは何だったのかとまた疑問に思った。