そうして答えられないでいるうちにも魔女は一歩、また一歩と近づいて来る。

 なんて答えるべきか、どうするべきか。


 わずかな恐怖に震えつつ、魅せられたように彼から目が離せない。

 ……足が、縫い付けられたかのように動かせない。


「雪華」

「っ⁉」

 目の前に立った彼は、妖しく誘うような眼差しでわたしを見下ろし名を呼ぶ。


 やっぱり、この人はわたしを知っているんだ。


 どうして?
 と思うと同時に。

 ああ、魔女だからか。
 と何故か納得してしまう。


 非現実的なほどの美しさを持つ魔女に、まともな思考を奪う魔法でも掛けられたかのようだった。


 彼の、リンゴを持っている方の腕がわたしの腰に回る。

 力強い腕に驚きつつも、わたしは抵抗の意志すら見せることが出来ないでいた。


 体が密着するほど引き寄せられ、もう片方の手がわたしのあごを捕らえる。

 オレンジがかったような赤みのある茶色の目が、妖しく揺らめく炎を灯しながらわたしを見つめた。


 その瞳に、その炎に、わたしの心は絡めとられていく。

 まるで、心臓そのものを奪われてしまったかのよう。


「ここには来るな」

 そう告げた声と共に、その秀麗な顔が降りてきた。