かわいそうな雪華。

 こんな俺に執着されてしまった哀れな女。


 俺だって、できることならもっと大切に扱ってやりたい。

 だがそれは無理な話。

 こうして手元に来たからには離してやれない。

 出来るなら、ずっと俺の腕の中に閉じ込めておきたい。


 こうなるのが分かっていたから、俺のものになる気になったときのみ連れて来いと言っていたのに……。


「ったく、ホントあのダメ親父が……」

 思わず悪態をつく。


 分かっているさ。
 親父が優しい人間だってことは。

 ただ、その分弱い人間でもある。

 だから俺たちの母さんからも逃げ出すように離婚したんだ。


 雪華の母親が亡くなったと聞いたとき、きっとまた落ち込むんだろうなってのは予測できた。

 だが、まさか雪華にその母親の影を求めようとするとは……。


「とりあえず、一発殴るのは確定だな」

 いくら実の父親でも許せないものは許せない。

 一発で済ましてやろうとしてるんだからむしろ譲歩してるだろう。


 まあとにかく、親父のことは後だ。

 今はやるべきことをやってしまわないとならない。

 でないと、確実に雪華を巻き込んでしまう。


 そうならないように対策を(こう)じなきゃならないか。

 頭を働かせながら、俺は可愛くて哀れな、俺にとって唯一の存在の寝顔を見つめ続けた。