初めて出来た欲しいもの。

 必要なものではなく、純粋に欲しいと思ったもの。


 絶対に逃したくなくて、驚いて固まる雪華にちゃんと宣言したんだ。

『お前が欲しくなったよ、雪華』

 と……。


 俺に初めて出来た欲しいもの。

 唯一欲した相手。

 それはすぐに執着となるほどに強いものとなった。


「雪華?」

 俺の腕をギュッと掴んでいた彼女の手からフッと力が抜けたのを感じて呼びかけてみる。

 だが返事はない。

 すでに意識を失っているようだ。


「またやっちまった……」

 昨日も時計塔で同じことをしてしまったと思ったばかりだっていうのに……。


 昨日は7年ぶりにまともに会えたことに驚きつつも、ちょうど会いたいと思っていたときだったこともあって抑えが効かなかった。

 今は、俺のものにならなくても唇だけはとついむさぼってしまった。


 雪華が苦しそうにしているのを気づいていながら、自分の欲求を優先してしまったんだ。


 意識を失い、唇が離されたことで呼吸が出来るようになったのか、今はスヤスヤと寝ているだけのように見えた。


 少しクセのある黒髪をすくい上げる。

 肩につくくらいのロングボブ。

 それを指先でクルクルともてあそびながら、可愛い寝顔を観賞した。