「これから毎日教え込んでやるよ。俺がどれだけお前を思っているか。どれだけお前を求めているかをな」

 声だけなのに、彼が艶美(えんび)に微笑んでいるのが分かる。

 それでいて、甘く優し気な響きもあった。


「心配しなくても、お前が良いと言うまで抱かねぇよ。……でも、その代わり唇は拒むな」

 顔が近づいてきてるのがその声の近さで分かる。

 息がかかるほど近づいて、囁かれた。


「目は閉じてろ。……怖いものは、見なくていい」

「っあ……」

 それは優しさなんだろうか。

 義父さんと同じその目は見なくてもいい、と。


 でもそれを確認することもできず、わたしの唇は塞がれた。

「んっ」

 時計塔のときと同じ、わたしのすべてを奪うようなキス。

 息がしづらくて、苦しくて。

 彼の手が目元から離れてもわたしは目をギュッとつむっていた。


「待っ、くるしっんっ」

 昨日とは違って少しは離してくれる瞬間があったから苦しいと訴えたけれど、聞こえていないのかまたむさぼるようにふさがれる。


 苦しい毒のようなキスは、やっぱりリンゴの味がした。


 朦朧としてくる意識の中で、初めてのキスはどんな味だったっけ、と考える。

 わたしのファーストキスも、この人だったから。


 7年前、リンゴを差し出したわたしに美味しそうだなと言ってキスをした人。

 突然のキスに驚いて、わたしはあのときの記憶がちらほら吹っ飛んでしまった。


 何か、大事なものもあった気がするのに……。


 彼のことを知れば、思い出せるのかな?


 そう思いながら、わたしは意識を手放した。