繋がれた手を引かれ、昨日の様に腰に腕を回される。

 でも今日はリンゴを持っていないから、腰もしっかり掴まれた。


 もう片方の手が、わたしの頬を包む様に触れて……。

「雪華……」

 艶めいた唇が、甘くわたしの名を呼ぶ。


 求められていることが分かって、喜びに似た感情が湧き上がった気がした。


 でも、間近に見たその赤みのある茶色い目が数時間前のものと重なって――。


『沙奈……慰めてくれ……』

 その瞬間、魔法が解けた。



「っ⁉︎ ぃやっ!」

 バシッ


 ……思わず、その綺麗な顔を両手で隠すように抑える。


「……おい」

 丁度口だけが見える状態の彼が不満そうに声を上げた。

 まあ、言いたいことは何となくわかる。


 何ていうか、いい雰囲気っていうか……もうそのままって感じだったのを止められたんだから不満にも思うだろう。

 でも、正気になったわたしは流石にもうこのまま……なんていうのは無理だ。

 義父さんのことを思い出してしまったからなおさら。


「っご、ごめんなさい。……でも、その……」

 どう説明しようかと口ごもっていると、ピロロンとスマホの着信らしき音が繰り返し鳴った。