カチャ……バタン


 と、玄関のドアが開き閉まる音がした。

 もしかして、と思うと同時に颯介さんが「お、帰って来たな」と口にする。


 わたしは荷物を取ろうとした手を戻し、玄関に続く横開きのドアを凝視した。

 そんなわたしに視線をやった颯介さんは、面白そうに、何かの演出でもするかのような口調で話す。


「さあ姫、お待たせしました。彼が《黒銀》のトップ。魔女と呼ばれる、最強の総長だ」

「――っ!」


 《魔女》

 その名称に、さっきリンゴを見た時から連想されたものが頭の中を駆け巡る。

 あり得ないと否定しながらも、つながってしまう線。


 そうか、わたしは気づいてたんだ。

 気づいて、でも認めたくなくて否定しようとしていただけ。


 だって、もし彼が昨日会った魔女だとしたら……。

 わたしは否応(いやおう)なく彼に惹かれてしまうのが分かっていたから。


 彼の腕の力が、妖しく誘う唇が、揺らめく炎を秘めた瞳が。

 全てがわたしを心ごと絡め取って縛るから。

 だから、同じだったら困ると思った。


 でも、わたしがどんなに否定しようとしても現実は変わらない。


 ガラッ


 音を立てて開いたドアの先から現れたのは、紛れもなく昨日会った魔女だった――。