シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する

「義姉さん待って!」

 でも眞白に腕を掴まれて止められた。


「ここを出てどこに行くって言うんだよ!? 家は駄目だからな!?」

 その言葉にピタッとわたしの動きも止まる。


 眞白に言われなくても、今日は家に帰ろうとは思えなかった。

 義父さんとは顔を合わせることが出来そうにないし、したくない。

 少なくとも今夜は絶対に無理だ。


「俺、ここしか義姉さんを安心して預けられるところないんだ。それに1人にさせたくないし……」

 眞白の気遣いは素直に嬉しかった。

 でも……。


「ここしかって……眞白にはもう1人兄がいるじゃない。金多くんなら事情を話せば泊まる場所くらい用意してくれるんじゃないかな?」

 本当に頼ろうと思ったわけじゃないけれど、眞白にはもう1人信頼出来そうな兄がいるでしょ? と思って口にしてみる。

 でも、眞白は突然表情を変えて硬い声を出した。


「だめだ」

「え?」

「金多兄さんの所はだめだ」

「眞白……?」

 こわばった表情にどうしたのかと思う。


 今朝みたいに、たまに話しているところを見ても仲が悪いようには見えない。

 それなのにここまで警戒するようにだめって言うとか……。