シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する

「姫って、総長の女の事って言った?」

「ああ、言ったな」

「わたしが?」

「そ」

「……なった覚えがないんですけど?」

 そう、一番問題なのはそこだ。

 どうして小学生の時に一度会っただけの人の女――つまり彼女ってことになっているのか……。

 なった覚えもなければ了承した覚えもない。


「まあ、あくまで予定ってことらしいけど……ギンがそうするって決めたなら遅かれ早かれそうなるだろうしな」

「はい!?」

「だって、俺あいつと会ってからあいつが言ったことを叶えられなかったトコ見たことないし」

「は……」

 それは……なんていうか……凄いね。


「そういえば俺も見たことないな。兄さんが望んだもの手に入れられなかったところ」

 視線を斜め上に向けながら眞白も思い出すように同意する。

 8歳から別々に暮らしていたとはいえ実の弟までそう言うとは……。


 まあ、でも確かに。

 と、わたしも7年前に一度会ったときのことを思い出して考える。


 当時11歳だった彼は、すでに達観しているような少年だった。

 生まれ持って能力が高かったのか、一通りのことが一度で出来てしまうと言っていた。

 ついでに言うと母親に特に可愛がられていたこともあり、何かを欲しいなとか良いなと呟いただけで翌日にはそれが用意されていたりとか……。