シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する

「ふーん……じゃあ、せっかくだから読んでみるね」

 ホラーとかの怖いのは苦手だけれど、これはグリム童話だしそういうものとは違うだろうと思って借りてみる。


 そうして3階の自分の部屋でしばらく読んでいたんだけれど……。


「……これ返すね。ありがとう」

 小一時間後、そう言ってわたしはその本を三つ子に返した。

 リビングで何か書類っぽいものを読んでいた颯介さんに「もう読んだの?」と驚かれたけれど、全部は読んでいない。


 グリム童話の有名なお話をピックアップしてまとめられた短編集みたいだったけれど、一番最初にあった白雪姫のお話を読んであとは断念した。

 メルヘンなんて欠片もないドロドロの愛憎劇だ。


 魔女でもある王妃が継母じゃなくて実母って部分でも驚きだったのに、その実母が白雪姫を殺してしまおうと思ってしまうほどの理由ってのがまた……。

 うう……ちょっと受け付けなかった。


 興味深くはあるんだろうけれど、わたしは童話には夢を見ていたい。

 ということで、他の作品を読むのは断念した。


「いえ、白雪姫だけ読んで断念しました」

「そうなの? 俺も読んだけど結構面白かったよ?……生々しくて」

「その生々しさが無理です。童話くらい夢見させてください」

 進めてくる颯介さんにそう断言してわたしはソファーに座った。