「……雪華。あいつを下に落としたら、階段を下りてソウと合流しろ。そしたら少しそのまま待っててくれ」

「え? うん」

 もう少し詳しく聞きたかったけれど、ギンは杉浦を睨みつけた状態から視線を外さない。

 詳しく話す余裕もないんだろうと思って了解の返事だけをした。


 すると一瞬だけ優し気な眼差しをよこし、ギンはわたしから離れて立ち上がる。

「その情報源も含めて吐かせたいところだけどな……こいつに手を出した以上てめぇは再起不能決定だ」

 声にも怒りを込めてギンが唸る。

 そんな声でも美しく響くのは、彼が魔女だからだろうか。


 長い足をゆっくり動かしながら杉浦に近づく姿は、標的に狙いを定めたクロヒョウのようにも見えた。

 こんなときだというのに、その姿に見惚れる。


「はっ! 再起不能だぁ? んなことさせるかよ!」

 杉浦は言うが早いか、懐から大ぶりのナイフを取り出した。

「っ!?」

 ナイフ!?

 突然刃物を出してくるとは思わず、息を呑む。

 ギンがケガをしてしまうと心配したのも束の間。

 クロヒョウのような動きをする彼は、刃物などものともせず杉浦に向かって行くと突き出されたそれを翻って避け、そのままタックルして下まで突き落とした。