「チッ……この頑固者。自力で思い出せ、なんて言うんじゃなかったぜ」

 舌打ちをして不満そうでありながらも、彼は一度わたしの体から手を離してくれた。

 だから、わたしは少し笑いながら言い返す。


「でも、そんなわたしの頑固なところが好きなんでしょう?」

 7年前、何が何でも彼が興味を持てるものを見つけてやると意地を張った。

 このシェアハウスにお世話になるからと、食事の用意をすると決めて頑張ってる。

 そんな風に、自分の言ったことには全力で取り組むのがわたしだ。


 ギンは、わたしのそういうところを気に入ってくれているのだと思うから……。


「……はぁ」

 ギンはため息を吐くと、諦めにも似た困り笑顔を浮かべた。


「全く、お前には敵わねぇよ……」

 諦めの言葉を口にして、彼はわたしの手のひらに指を這わせる。

 指の間に滑り込むようにつないだ両手。

 それが、ベッドに押さえつけられるように沈んだ。


「こうやって、ちゃんと俺の手を掴んでろよ?」

「……ギン?」

「掴まれてないと、色んなトコロ触りたくなるからな」

「っ!」

 不敵に笑うその顔は、どこまでも妖艶で美しい。


 妖しく、(あで)やかなわたしの魔女は、その琥珀色の瞳にわたしだけを求める光を宿し、色気の漂う唇を落とした――。


 ……。
 …………。

 ……そして翌朝、わたしは自分の部屋のベッドでギンに抱きしめられながら目を覚まして、呟く。


「……どうしてこうなった」

 一人で寝るという計画は、またしても失敗に終わっていた。