初めて自分からした触れるだけのキスは、リンゴの香りがする。

 ギンからのリンゴ味のキスは苦しくて毒の様だけれど、自分からしたリンゴの香りのキスは、優しく、(かぐわ)しく、甘い気がした。


 唇を離しても驚いて見開いている目を見つめ返す。

 自分からキスをしてしまったという照れはあったけれど、ギンのアンバーの虹彩に映る自分を笑顔に変えた。

「ギンは、義父さんとは違うよ。ちゃんと、わたしを見てくれるでしょう?」

 だから、もう隠さなくていいよと伝える。


「雪華……」

 呆然とした様子で呟くようにわたしを呼んだギンは、ふわりと花開くような笑みを浮かべた。

「っ!?」

 男の人を花にたとえるのはどうかとも思ったけれど、今のギンの表情はまさにユリの王様とも言えるカサブランカが花開いたような、そんな華やかさがある。

 その微笑みに内包されている豪奢(ごうしゃ)な色気に、わたしはすぐに呑まれてしまった。


 細められた琥珀色の瞳が、甘い欲を持ってわたしを見下ろす。

 言葉を交わさずとも、互いに惹かれる思いが絡み合った。

 吸い込まれるように、どちらともなく近づき唇が触れあう。


 リンゴの香りと味がするキスは、苦しいけれど、甘く優しい……。

 わたしたちはそのまましばらく、甘美な触れ合いに浸っていた……。